暗いせいではっきりとはわからないが、声の感じからして若そうだ。私とそう変わらないかもしれない。

「夜風に当たりたくなってな。そちらは見回りか?」
「はい。今夜の当番なもので」
「大変ですね。お疲れ様です」

 私が言うとその人はにこやかに笑った。

「ありがとうございます。海に落ちないように気を付けてくださいね」

 彼は一礼してから私たちの横をすり抜け軽い足取りで階段を下りて行った。

 ――あれ?
 その後ろ姿には覚えがあった。

「どうした?」
「あの人、昼間食堂で船酔いしてた人じゃないかな」

 カウンターに突っ伏してしまっていたから確実ではないが、新人だと言われていた男の子。

「そうか?」
「若そうだし……でも船酔い治ったみたいだね。良かった」

 私のように漸く揺れに慣れたのかもしれない。

「特に問題はなさそうだな。船室に戻るか」
「あ、うん。ホントごめんね」

 私はもう一度謝ってからセリーンと共に船室へと戻り、それから間もなくして眠りにつくことが出来た。