「仕方ないじゃん。……でも、歌声ってほんとかな」

 身を乗り出して小声で言うとじろっと睨まれてしまった。

「気になるとか言うなよ」
「……」

 気にならないと言えば嘘になるので視線を外しながらゆっくりと体勢を直しスプーンを手に取った。
 幽霊船の正体が銀のセイレーンだという先ほどの人の推理は残念ながら外れているけれど、でも本当に歌声が聞こえてくるのだとしたら……。

「なんだ。カノンは幽霊船に会いたいのか?」
「え? ううん、会いたくないよ!?」

 セリーンに真顔で訊かれてしまい私は焦って首を振った。

 幽霊船なんて絶対にゴメンだ。あと海賊船も。

 このまま何事もなく、嵐に遭うこともなく、なるべく早くサエタ港に着いて欲しい。そう改めて願いながら私はスープに浸って大分柔らかくなったパンを口に入れたのだった。