「カノン、気分はどうだ?」

 キラキラと輝く紺碧の大海原を眺めていた私は背後から掛けられた声に振り向いた。
 赤毛を潮風に靡かせたセリーンが心配そうに首を傾げていて私は笑顔で答える。

「うん、ありがとう。大分慣れたかな。昨日よりは全然マシだよ」

 本当に、昨日と一昨日は最悪だったから。

 ――大型の帆船に乗ってヴァロール港を出てから3日、この世界で初めての船旅にワクワクしたのは最初の10分くらいなものだった。

 この世界の船の揺れること。更には水の腐ったような悪臭もあって出港して一時間もしないうちに私は酔ってしまった。しかし一度陸を離れてしまったからには目的地に到着するまで逃げ場もなくそれからずっと船室で横になっていたのだ。

 そして今朝になって漸く少しは身体が波に慣れてきたのか、こうして立ち上がり甲板で海を眺められるようになった。最初ずっと耳に付いていたギィギィと船体が軋む音も今はそこまで気にならない。

「あの男が術で風を送ればもっと早くにサエタ港に着けるのになぁ。全く融通の利かん男だ」

 ふんと鼻息荒くぼやいたセリーンに私は苦笑する。