「……シリウスさん」

数十分後、エヴァはようやく顔を上げてくれた。深い青の瞳に自身が映った時、シリウスは心からホッとしてエヴァを抱きしめてしまう。

「よかった……。エヴァが壊れてしまったかと思った……」

エヴァは、突然抱きしめられたことに驚くことなく口を開く。

「昔のことを少しまた思い出しました……」

「それはどんな記憶なの?」

シリウスは少し緊張しながらエヴァの顔を見つめる。しかし、エヴァの顔は以前の苦しげなものではなく穏やかな表情だった。

「私の名前を呼んでくれた人の記憶です。この手は、その人の体温をずっと覚えています。私の心は、その人のことを考えると揺れ動きます。私はその人のことを特別に想っているのです」

「そっか……。幸せな記憶なんだね……」

エヴァが穏やかな表情でいてくれることにシリウスは微笑み、エヴァの頭に優しく手を置く。エヴァの髪はまるで絹のようで、シリウスは触れるたびに胸を高鳴らせた。