その日の昼休み、俺は何となく校舎内をフラフラしていた。
始まったばかりの高校のクラスは、まだまだ見えない緊張感がそこかしこに漂ってざわついていた。
馴染もうとする努力の結果、妙に声をかけるヤツとか、必要以上に声がでかいヤツとか、気配に敏感になりながらも席に座り続けているヤツとか。
そんな雰囲気に急にうんざりした俺は教室を出た。
といっても行くところもない。
しょうがないから音楽室でも見てくるか。
郁が昨日になって、何を思ったか軽音に入ると言い出し、なぜか俺も付き合うという事になったところだった。
しょうがない。郁ひとりじゃ心配だし、在籍ぐらいはしてもいいさ。
そんなことを考えながら音楽室までくると、中からピアノの音が聞こえた。
俺は興味を覚えて教室の中をのぞいて見た。
ピアノを弾いているのは先輩らしい女の人だった。
綺麗な長い黒髪をしている。
その人はちらっと俺を見たがそのまま弾き続けた。聴いたことのない、しかし美しい旋律の曲だった。
やがて弾き終わるとその人は言った。
「何か用だった?」
俺は、しどろもどろに答えた。