清々しい初夏の日の思い出としては、あまり相応しくないと、ヒルダは思う。

雨が降れば、他の奴隷達はまるで親の与える餌を必死になって求める雛鳥の様に口を大きく開いて上を向いた。

ヒルダはそれをしなかった。

雨水は腹をくだす恐れがあると考えたからだ。

一度でも体を壊せば船旅は後が辛くなる。

元々ヒルダは少食で、食事という行為に魅力を感じず、ヒルダ・レガートであった時は、うっかりと食事を忘れる事も珍しくはなかった。

一種の特異体質ともいえる。

ヒルダが、人間の三大欲求で平均的な はたらきを示しているのは睡眠欲くらいだ。

体力は平均以下ほどであるヒルダだが、その痩せぎすな体は驚くほど びくともしなかった。

食事はどんどん粗末になっていく。

麦や米などは、もはや奴隷商人の口にすら入らなくなり、奴隷達は芋の蔓(つる)や豆の殻、鶏の足の骨などを与えられた。

ヒルダは特に文句もなく、気が狂うことがないように、ガリガリと鶏の骨をかじり続けた。

船で移動中の為 労働が無く、日に日に足が萎えていくのを感じ、一日も早く、農園につくことを願った。