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宮本さんが、丁寧に頭を撫でてくれて、それがすごく幸せで温かく感じて、だから感情が余計に込み上げて


「宮本さん…大好き」


私も宮本さんを抱きしめ返した。


………所までは良かったんだけど。



「……麻衣、一応謝っとく」


謝…る?

疑問符が頭の中にポンッと浮かんだと同時、首筋に柔らかな唇の感触。
そのまま、それが這って、鎖骨に移動し始める。


ちょっ、ちょっと待った…もしかして…


予期していなかった、宮本さんの突然の行動に、忙しなく動き出す心臓。


いや、でもほら、この位なら昨日の朝もやられたし…
ただ、少しスキンシップしてくれているだけなのかも。


ど、どちらにしても、とにかくシャワーを浴びたい。


慌ててシャワーを浴びたいと言ってみたら、「何で?」なんて掠れ声で囁かれて、一気に羞恥心が込み上げる。


だ、だって…宮本さんがこんな風に触れてくれてるんだよ?
き、期待…するなと言う方が…


「問答無用」


そのまま唇を塞がれて、宮本さんの手が身体を捕らえ直す。


「んんっ…」


角度を変えて何度も降ってくる深いキス。
宮本さんの指先が少し腰のラインを這い、私のセーターの裾から、中へと入り下着に触れた。


ど、どうしよう……


「あ、あの…ほ、本当に汗が…わ、私いっぱい走って…」


イレギュラーな事に、どうしていいかわからなくなって、そう言ってはみても。


「後でゆっくり浴びさせてあげるから。」


暖簾に腕押しな感じ。


「じゃあ、とりあえず脱いどく?」とセーターとインナーを上にまくられて、腕を上げさせられて、そのまま両腕を服ごと捕らえられ、胸の付け根にその薄めの唇がくっつく。
そのまま、脇の方へ舌が這って、こそばゆさに思わず身を固くした。


「み、宮本…さ…んっ」


ベッドに組み敷かれ、妖艶な笑みが私を見下ろして、何度も何度も私の唇を丁寧に啄んだ。
その指先が、肌を滑り、反応する身体を弄ぶ。
頭の中はどんどん真っ白になり、為す術なく、宮本さんに翻弄されるだけ。


けれど、全てが幸せで。


触れてくれる感触も、沢山くれたキスも、全部嬉しくて。繋がり、歪める顔も、汗ばんでいる肌も全部愛おしくて。


“宮本さんが大好き”
「麻衣…好き。」


再び囁かれた言葉に、気持ちが満たされて溢れながら果てた。





…はずだったんだけど。



「……。」
「あ~…今、何時だろう。」


ベッドの中、宮本さんが少し身体を起こしてローボードの上の時計を見た。


「あ、もうすぐ昼になるよ?」
「………。」
「麻衣?」


うつぶせで、顔を腕に隠したまま、ぐったりしている私の耳元で、楽しそうな声。もそもそと布団が動き、その指先が髪をそっとどかした。

首の付け根に唇が触れる。


「ちょっ…み、宮本さ……っ」


それに反応して、顔を宮本さんの方へ向けたら、頭を引き寄せられて、唇同士がふわりと触れ合う。


「…もう1回シャワー浴びる?」
「も、もう大丈夫…です…」
「そ?じゃあ…」
「っ!そ、そうじゃなくて…」


再び私を抱き寄せて指先を素肌に滑らせ始めた宮本さんに私が慌てて向き直った。



そう…私的には初めの感動的な1回で満たされたはずだった。けれど、何故かそうはいかなかった。

何だかんだと言いくるめられ、狭い浴室に二人で入り、それからまた、ベッドに入って…

多分…最終的に意識を失ったのは(言い方が悪い)明け方、だと思う。


宮本さんは私に対してそう言う事をする気が起きない訳ではなかったって事…だよね?

じゃあ手を出されなかったこの一週間は一体……


様子を伺うように宮本さんを見たら、トロンとした目に沢山の煌めき。薄めの唇が三日月になってて、髪がぴょんぴょん跳ねてて……

…可愛い。


うっすら生えてるひげがまたギャップと言うか、なんと言うか。


私も宮本さんの髪に自分の指を通し、引き寄せる。おでこをコツンとつけて、それから口を尖らせた。


「…ずるい。」
「何でだよ。」


くふふと笑う宮本さんは本当に楽しそうで。
私の尖った唇にチュッと軽く自分のをつけ、それからまた私を引き寄せキスをし始めた。


~♪~♪~♪

途端、ローボードの上でスマホが着信を知らせた。


「……宮本さん、スマホが鳴っています…」
「気のせい。」


~♪~♪~♪


一度切れたスマホは再び鳴り出す。


「み、宮本さん…」
「いいよ。ほっとけば。そのうち諦めるでしょ。」
「で、でも。重要な事かもしれませんよ?仕事の連絡とか…」
「やだ。出たくない。」


や、やだって…


~♪~♪~♪


「宮本さん……」


三度かかってきた電話で、私の胸元に顔を埋めていた宮本さんを押したら、フウと溜息。「あー…もう。」と若干口をとがらせ、不機嫌極まりない表情でスマホを手に取り起き上がった。


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「……真斗だ。」


鈴木さん…か…


「おかけになった電話は、現在全く出られません。」

?!
宮本さん、キングになんて事を!


「……うん。すげー取り込み中だった。」


……あれ?でも。

ムスッとしていた宮本さんは、その表情を緩め、楽しそうな表情に変わって行く。鈴木さんと、仲が良い…のか…な。


「あ~…うん。わかった。うん…じゃあ、二時間後。
ん?平気だって。そりゃ、真斗に呼び出されたら行きますって。」


くふふと笑う宮本さんはやっぱり楽しそう。


でも、二時間後に真斗さんと約束をしたと言うことは、仕事…だよね。
昨日も課長に呼び出されたって言ってたし、やっぱり宮本さんは忙しいな…。


スマホを切った宮本さんは、ポイッとそれを投げ出すとご機嫌な顔で私に覆い被さる様に、再び寝転んだ。そのまま、鼻をすり寄せる。


「あ、あの…仕事…ですか?」
「いや?ただの個人的な呼び出し。」
「じゃ、じゃあ…行かないと…」
「うん。行くよ?でもまだ時間あるから。
麻衣も一緒に行くし。」


わ、私も……?


「真斗が連れて来いってさ。」


き、キングから直々の呼び出し?!
な、何で?!


「ああああ、あの…私、一張羅が就職活動したときのスーツしか無いんですけど…それでも大丈夫…。失礼無いですか…?」

「……麻衣、鈴木真斗に対する印象おかしくない?」

「いや、だって。」

「だって?」

「…“キング”だし。」

「何、あなたもそんな?!すげーな、真斗!」


宮本さんが楽しげに笑い出したけど、それどころじゃない。


「とにかく、し、支度しないと…」
「二時間後だよ?ゆっくりしてても大丈夫でしょ。」
「で、でも…」
「別に仕事の話じゃないんだし、普通に普段着で大丈夫だって。」


「と言うかね?」と、上から見下ろす様に私を見る宮本さん。小首を傾げ、口角をキュッとあげると私の左頬を少し摘まんだ。


「真斗に会いに行くために『お洒落しよう』なんて思う時間があったら、今、俺の相手すべきでしょ?」


優しいはずの表情が色気を含み、目が反らせなくなる。コクリと思わず喉を鳴らした私に、宮本さんは満足そうな微笑みを浮かべて


「…麻衣は“キング”より俺じゃないとだめ。」


そう言ってまたキスを落とした。




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