「さっむ…」



店を出て空気の冷たさに少し身震いしてたら、口を若干尖らせた困惑気味の麻衣が後から出て来た。


「行くよ」と言いつつ、触れたくなってほっぺたを摘まむ。

伸ばした頬の感触が柔らかくて心地良くて。

ムーッと尖らせる唇に、「なんなら連れて帰るけど」なんて、また思いながら頬に指先を滑らせてから、手を握る。


「じゃあ、明日チャラにして?そしたら平等でしょ?」


明日の約束も当たり前の様にとりつける。


「昼休みにどこ行くかは決めようか。」


ついでに昼も。


…一週間の“口説き期間”て、案外いいかもしれない。
麻衣も、“一週間は恋人だから”と言う意識が植え付けられているから俺がこんなにベッタリでも違和感もそんなに無いだろうし…


不意に麻衣の足が止まり、少し小首を傾げた。


「どうした?」って俺も小首を傾げて見せたら、「明日はラーメンかなあって」と笑いまた歩き出す。


けれど、信号待ちで、小さくフウと溜息を出した。


まあ…違和感ゼロは難しいか。


あんな現場見ちゃっているし、その前から俺の噂は多少なりとも耳に入っていただろうし。「続かない」「タラシ」的な。そんな俺がこうもベッタリだったら、多少変に思うかもしれない…かな。



…でも、都合のいい話だけどね?
出来れば、麻衣と一緒に居る、“今の俺”を見て欲しいかも。


繋いでいる手をギュッと握り直して引き寄せて、唇をくっつけた。


俺は、本当に単純。
麻衣と居るのがどんどん心地良くなっていて、それをその都度、素直に表しているだけ。


けれど、目の前の麻衣の表情は、完全に「戸惑っています」と言う表情で。

…少しヒいてるよね、多分。

やり過ぎてるなーって何となく思ってはいるけど、俺も。

今日で三日目…か。

とりあえず、松也さんの店に連れてく事も出来たし、今日は大人しく、これで退散しようかな。俺にとっては、リタイヤされるのが一番キツイし。


一応麻衣に紳士に接してあげて。自宅前までお見送りして爽やかに去る。


だから?
それが功を奏したの?


なんて後から考えたけれど。

とにかく、4日目にまさかの展開が待ってるなんて、さすがにこの時は思いもしなかった。



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