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宮本さんの車を走らせる事30分程で着いた、都心の街中にある小さな遊園地。

大きな観覧車がライトアップを始める位に辺りは暗くなっていて、乗り込み少し上がっただけで、夜景を一望出来た。


「綺麗…」


これ…てっぺんまで行ったらかなり綺麗だよね、きっと。
何はともあれ、やっぱり嬉しい…。宮本さんと観覧車乗って夜景を見ているなんて。

頬が勝手にユルユル。
窓の外の風景を見ながら、へへへと目を細めた途端

~♪

短いスマホのシャッター音が鳴った。


真正面に座ってる宮本さんを見たら、眉を下げて面白そうに笑っている。


「や、麻衣があまりにもイイ顔してんなーって思ってさ。」


ほらって見せられた私の横顔の画像。

窓に鼻先をくっつけて、にや~って…


「……不細工極まりない。」


不服そうに口を尖らせる私に、ククッと含み笑いの宮本さんは物凄くご機嫌。


…私の画像なんて撮ってどうするんだろ。
どうせ後二日で要らなくなるのに。

それとも…付き合った女の人、全員記念に撮ってるとか?


そんなタイプにも見えないんだけどな…。どちらかと言うと、執着の無い感じに見える。そうじゃなきゃ、『別れたいって言うから別れる』なんて事にはならないよね…。

ちょっと思考が逸れていたんだって思う。


「すげー不服そう。」
「だって。どうせなら、宮本さんと二人の画像がいいのに。」


つい、売り言葉に買い言葉的に、ポロリと本音を呟いてしまった。


呟いてから、少ししまったとは思った。
言われた宮本さんは、少し小首を傾げて笑いもせずこっちを見ているし。


…絶対『面倒くせえな』って今思ってるよね。


まあでも。もう別にいいや、ここまで来たら。
どうせ、後二日だから、私が彼女でいるのは。


宮本さんからまた夜景に目を移した。

大分上まで昇ってきたせいか、遠く水平線に浮かぶ船の灯りも見えて、さっきよりも更に綺麗な夜景。それに、何となく見とれていたら隣に宮本さんがドサリと座った。私が振り返る前に、横からギュウッと包まれる。耳裏に微かに宮本さんの唇が触れた。


「…撮る?一緒に。」
「い、いいんです…か…?」
「ダメな理由は特に無いけど。」


鼓動が早く強く打ち、それを誤魔化す為に、「じゃ、じゃあ…」とスマホを取りだした。そのまま、上に持ち上げてシャッターを押す。

二人並んだ顔は、どう見ても宮本さんのが数倍可愛い。

私、邪魔だな、これ。


「…やっぱり、宮本さんだけのがいい。」
「それは要らないでしょ。」
「宮本さんは撮ったじゃないですか。私だけの。」


不服を前面に出してスマホ画面を見ている私を宮本さんが「俺はいいの。」とまた包み直した。


「ほら、麻衣。そんな事言ってると観覧車下についちゃうよ?」
「あ……」


いつの間にか頂上は過ぎて、下降し始めていた観覧車。ぐんぐんと高度を下げていく感覚に、寂しさを覚えた。


…ちゃんと覚えておかなきゃ。
抱きしめてくれた感触と、この綺麗な夜景を。
もう…二度と…味わう事の出来ない時間を。


鼻の奥がツンと痛みを覚えて、少し鼻を啜ったら、同じタイミングで私を包んでいる宮本さんの腕に力がよりこもった。


「…麻衣、さ。」


微かに、囁く様に…でも、どこか真面目な声色が耳元でする。


「……。」


そこから少しの時間、宮本さんは言葉を途切れさせて、一度フッと少し息を吐く。それから「あのさ…」と再び口を開いた。


…けれど。


観覧車が地上に降りて来た事を知らせるがごとく、ガコンと音を立てる。
その音に反応して「あ~…」と少し溜息をつきながら、宮本さんが腕を解いた。


「お疲れ様です!到着でーす!足元お気を付けください。」


係員の人の明るい声に、宮本さんが立ち上がる。
慌ててその後に続いて私も降りた。


「さっむ…」


降り口を出ると、宮本さんがまた私の手を握ってポケットに突っ込む。


「どうする?もう夕飯食いに行く?寒いし。」


それに「はい」と答えたけど。


『あのさ…』


一体何を話そうとしたんだろう……