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「…うん。美味い。」


モグモグ口を動かしながら、ビールをグビッと一口美味しそうに飲む宮本さん。


『麻衣の夕飯カップラーメンになるよ』


…あれ、本気だった?



相変わらず、10分程でシャワーから出て来て、食べ始めてから箸がサクサク進む。

ハンバーグも豚肉の肉巻きも…ぽんぽん口に入っていく。時々ビールをグイッと飲んで、また、おかずをつまむ。


お腹…空いていたのかな。
待たせてしまって本当に申し訳なかった。

私が作るなんて言わなければ、スマホにも気がつけて、どこかでさっと夕飯が食べられたのに。


「…宮本さん、すみませんでした。」


ほっぺたが片方だけ膨らんだまま、もぐもぐが止まって、私の方に顔が向いた。不思議そうなその表情に、私は苦笑い。


「や…あの…お腹がすごく空いていたんだなあって思いまして。
だから…私が作るよりも、どこかで食べた方が早くお夕飯になったよなーって。」


普段から、大して料理が得意でもなかったのに、こんな時ばかり張り切ってね…かえって迷惑をかけてしまった。


宮本さんから目線を逸らしてビールを一口飲む。
それから、フッと息を吐いて、笑顔を向けた。


「…でも、嬉しいです。ありがとうございます。私のワガママにこうやって付き合ってくれて。」


分かってる。
一週間限定の付き合いだからだって事は。

でも、それでも。

理由はどうあれ、 やっぱりこうして優しく接してくれているのは事実だから。だから、私はありがとうって思うし、嬉しいから。

へへっとにやけて見せたら、宮本さんのほっぺたがまたモグモグと動き出す。
真顔のまま、今度は卵焼きをパクッと口に入れ、ビールをまた、一口コクリと飲んだ。

「……まあ。
腹は減ってたよね。
朝から何も食べてないし。」

「あ、朝…から、ですか?」


「や、だって。」と、ソファの背もたれに身体を預けてから、私を見る。


「考えてもみなよ。
俺がね?例えば、昼飯とか…軽く夕飯?食ってさ。腹でも壊したらどうする?
麻衣が初めて作ってくれる夕飯、食えないんだよ?一口も。」


つまり、このお弁当の為に一日何も食べなかった…ってこと?


「食うって言った以上、食いますよ?俺は。」
「……律儀。」


私の反応にクッと笑うと背もたれから身体を起こして、私の左頬をつまむ。


「そうですよ?律儀なの、俺は。よく出来た彼氏でしょ?」


唇の両端をあげて得意気な笑顔。それに、キュウッと心が掴まれて、泣きたくなった。


うん…よく出来た彼氏。
ずっとずっと一緒にいて欲しいって、欲がどんどん膨らむ位に。


顔をこわばらせて一生懸命、涙を耐え、笑顔をつくる。
そんな私に、甘い口づけがふわりと降ってくる。


「…まあ、でもね。
俺に夕飯作るのが、麻衣の"我が侭”だって言うなら、俺は別に構わないけどね。昼間ずーっと空腹でも。」


……甘くて優しくて、気持ちが辛い。



もうすぐ終わる…んだもんね。

こんな風に、優しく彼女として大事にして貰える時間は。




お夕飯を食べて、少し二人でおしゃべりして。
「寝よっか」ってまた奥に押し込められて、布団に潜る。

そして、やっぱり、背中から腕と足でぐるんと抱きしめられて………ゲーム。
いや、まあ…部屋着に着替えろって言われた時点で、こうなるとは思っていたけど。


「…宮本さん、ゲームが本当に大好きなんですね。」


あ、少し言い方にトゲがあったかも…なんて思ったけれど


「うん。ある意味俺の精神安定剤みたいなもんかな。もうね、生活の一部。」


嫌味の籠もった私の言葉はサラリとかわされる。



まあ…仕方ないか。
熱中している大好きなゲームと、つい先日から一緒に居る私。

そりゃ、ゲームに軍配が上がるよね。
それに…私にはどうあっても手を出さないと決めているっぽいし。
きっと、告白を受け入れた時にもう思っていたのかも。


『面倒くさい』って。


だから…敢えて乗っかって、ある程度納得させないとって思った…とか。


「………。」


包まれている温もりに、今までの優しく柔らかい宮本さんの笑顔を思い出す。


…本当に、『何だかな』だな。


『違う、本当は宮本さんも私の事を気に入ってくれて…』ってどこかで期待して、現実から目を逸らしたがっている私が居る。

都合が良すぎるよね…私。


「…宮本さん、お休みなさい」
「うん。おやすみ。」


あっさり、返される穏やかな言葉。
伏せた瞼に熱さを感じた。