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駅への道すがらにある川沿いの遊歩道。


「わ……っ」


川の向こう岸に見えるビル群の灯りがまばゆい光を放ち、夜景を作り上げている。


「意外と綺麗でしょ?ここ。穴場らしくて全然見てる人居ないしね。いっつもラーメン食いに来た帰りに思ってたんだよね、光の配置がイベントのヒントになりそうだなって。」


「でもさ」と私を宮本さんが背中から包み込んだ。


「いかんせん、寒くて。ここに立ち止まってじっくり見るのも結構大変なわけ。」


…つまり、暖を取る役割を私に果たして貰おうと。


ひゅうっと横から冷たい風が吹いて来た。
冷気のあたっている顔と足元は寒いけれど、包まれている身体はほかほかと温かい。

どちらかと言うと、私が宮本さんに冷気から守られているような。


「…これが、チャラにする事…」
「あれ、不服ですか?」


くふふと肩越しに届く優しいご機嫌な笑い声。


「麻衣ってあったかいからさ。俺にとっちゃ、かなりの至福だけど。」


私を抱きしめる事が…至福…
気持ちがギュウッと掴まれて、何となく鼻の奥がツンとする。


「あー暖か…」


しみじみ呟いて更に抱き寄せてくれる事に幸せを覚えた。


…このまま、時が止まっちゃえば良いのにな。
そうすれば宮本さんとずっと一緒に居られるのに。







暫く、そのまま「左側の光の配置がさ…」とか「あそこ、作田さんが手がけたらもっと綺麗になんだろうなー」とか…色々話をしていた宮本さんが、不意にクッと笑った。


「何か、麻衣のが“ゆるねこ日和”のクッションより抱き心地良さそうだよね。相当温いもん。抱き枕にしたら安眠出来そう。」
「……。」


……あくまでも、宮本さんは私の告白に『一週間』という条件で応じただけ。

だから別に、この場の雰囲気で言っただけであって、そういう気になったとかそういうわけではない。

それはちゃんとわかっている。


でも、やっぱり言われた私は舞い上がるよ。
宮本さんと居られる今、この時間が延ばせるかもしれない…って。


目の前の水面は、暗がりながら、遠くからの月明かりを反射してユラユラと煌めく。それを見つめながら心の中で深呼吸をしてから口を開いた。


「…試して…みますか?」


ひゅうっとまた少し強めの風が吹き抜けた。
それに呼応する様に、宮本さんがキュッと私を抱きしめ直す。


「……うん。」


微かに聞いた返事は、遠く橋の上を通る電車の音に飲み込まれていった。