わたしが固まっているうちに、先に目を逸らしたのは伊織くんだった。


伊織くんはわたしから目を逸らすだけじゃなく、あからさまに顔をパッと背けると、さっさと行ってしまった。




「…い、おりくん……」




わたしと伊織くんは、放課後の空き教室で会う時以外は他人のふりをするという約束をしていたから、致し方ないことではあった。


しかも、その約束はわたしから言い出したこと。


それなのに、伊織くんに顔を背けられたことにすごくショックを受けた。




伊織くんは優しい。


もしわたしと伊織くんの関係が疑われたとして、強く問い詰められたり当たりが強くなるのはわたしの方。


だから、その時のことを考えてくれたんだと思っても、気持ちは重くなるばかりだった。