婚約者だった柊には風香の部屋の鍵を渡していた。お互いに自宅の部屋を渡しており、お揃いの傘のキーホルダーをつけていた。もちろん、風香は今でも柊の鍵を大切に持っている。
 彼はどうだろうか。
 記憶を無くした柊が、風香に関連付けるものを見て、どう感じるのだろうか。
 それに、柊の自宅にも風香の荷物はたくさんあった。お揃いの食器やパジャマや洋服、化粧品もあったはずだ。今の彼の自宅はどうなってしまっているのか。そもそも、同じ場所に住んでいるのかも謎だった。教えてもらった大体の場所は同じだったが、違う所に住んでいる可能性もあるのだ。


 「風香ちゃん」
 「わっ………ど、どうしたの?柊さん」


 気づくと風香はいつの間にか彼に抱きしめられていた。車に乗り、柊が車を走られたのは覚えていたけれど、ボーッとして考えに耽っていたようだ。


 「………君が無事でよかったよ」
 「柊さん………」
 「君のうちに不法侵入者が入ったと聞いたときは、心配で仕方がなかったんだ。風香ちゃんの姿を見るまで安心なんて出来なかった。だから、またこうやって会えてよかったと心から思ってる」
 「………っっ………」


 彼の体温に包まれ、彼が本当に心配していたという感情のこもった声を間近で聞いて、風香の緊張の糸が切れてしまった。


 「………柊さん………怖かった………自分がもし、部屋に居たらって思うと、震えが止まらなかったの」
 「うん……そうだよね」
 「部屋にまだ誰かいるかもしれない。これから一人でどうしようとか考えた、不安だった」