「んー…………あれ、もう夕方か………」
腕を伸ばして固くなった体を解していると、窓から夕暮れの赤い光りが差し込んできているのに気づいた。
美鈴と話をしたのがお昼前だったので、もう5時間ぐらい仕事に集中していたようだった。
風香は今さら空腹を感じてしまい、キッチンに行って作りおきのおにぎりとスープを温めながら、スマホをチェックする。
すると、柊からメッセージが入っているのに気づいて、慌ててそれを開いた。
彼から電話もあったようだが、その後にメッセージが入っていた。
『仕事中にごめんなさい。明日の確認だったのでメッセージにしました。明日は、17時に駅に迎えに行くので待っていてください。美味しいチーズを楽しみに仕事頑張ってください。楽しみにしてます。では』
そのようなメッセージが入っていた。
風香は電話をかけようか迷ったけれど、そのまま「ありがとうございます。私も楽しみにしています」と返信だけにした。柊もきっと仕事をして忙しいと思ったのだ。
前回食事をした後の帰り道。柊に次のデートの誘いを受けた。2人の休みや仕事終わりを話し合い、明日に会うことになったのだ。
柊はとても紳士的に風香に接してくれるが、話しているととても楽しい。ニコニコと楽しそうにしてくれたり、自分の事に興味をもってくれているのがよくわかった。
彼の反応が嬉しくて、風香もきっと記憶がなくなる前は知っていたはずの事を何度も話す事が苦ではなかった。むしろ、もっと知ってほしいなとさえ思えた。
行方不明になっていた間に会えなかった寂しさ。それまでは毎日のように連絡をとり、彼と話していたのだ。
それが突然なくなってしまった。
その間の寂しさをうめるように、風香は柊に会いたいと強く思っていた。