「起立、礼、お願いします」
クラスの女子の挨拶がいつもよりワントーン高い。あからさまに態度に出していたり、隠していたり、態度はさまざまだが、ここでは皆が彼に好意があることを主張していた。

「じゃあ、昨日の伊勢物語の続きから。教科書の五十二ページ開いてください」

どうやら、在原業平は色好みな男だったらしい。
彼が成人してからその生を終えるまで彼の周りにはさまざまな色恋があった。
想い人と別れた部屋で一人昔を思い出したり、すれ違いで別れた妻と和歌を交わす話がある。
現代にはもうこんな情熱的な恋愛はないのかもしれないと冬香は感じていた。
そして、彼女はもし自分が平安時代にいたら、自分と先生の関係はどうなっているだろうかと思いを馳せる。