授業が終わって昼休みになると、僕は教室の前方に見慣れない人影があることに気付いた。

その子はニナと同じように机の隣に立ち尽くしていて、真っ黒な髪に浅黒い肌をしている。

チラッと見えたその横顔に浮かぶ目は血の様な赤で、ニナと同い年に見えるのに外見は正反対だ。

「ねえ、あんな生徒っていたっけ?」



僕が指さしながら聞くと、ニナは不機嫌そうな顔で答えた。

「うんいたよ。彼女の名前はマナ。私が来る前からここに居座ってるの」

「どうして今まで気づかなかったんだろう」

「気付かなくてよかったんだよ。あんな忌々しい害虫のことなんか」



急に口が悪くなるニナに驚いて、僕は振り向く。

「あの子のことを知っているの? だったら僕にも教えてよ。ニナが見える様になったことと関係があるかもしれない」

「絶対イヤだし、知ろうとしちゃダメ。そんなことをすれば想太は間違いなく不幸になる」

「どうして――」



その時、数人の男子生徒がやって来て黒髪の少女の隣にいる男子生徒に話しかけた。

その相手は堀川達樹(ほりかわ たつき)という名前で、席替えする前は隣に生徒だ。

穏やかで優しい上に勉強も出来るので、ついつい授業に遅れがちな僕は何度か彼にノートを写させてもらった記憶がある。

彼は少し顔を引きつらせた後、彼らに連れられてゆっくりと教室を出て行く。

黒髪の少女も堀川君の後ろを陽炎の様に付いていき……最後、教室を出る直前に僕の方を見て悪戯っぽくウインクした。

「それ以上マナを見ちゃダメ」



グイッ、とニナが僕の顔を掴んで無理やりこちらに向けた。

「だって気になるじゃないか。彼らはどこに行ったの?」

「想太がそれを知る必要はないの。彼らと私たちが住む場所は全く別の世界なんだから」

「でも放っておけないよ。堀川君には以前何度も助けてもらったんだ。それにさっき、彼は何だか困っている様に見えた」



ニナはしばらくの間、青い澄んだ瞳で僕をジッと見据え……それから小さくため息を吐いた。



「分かった、そこまで言うならこれ以上は止めない。でもいい? マナには絶対に近づいたらダメだよ?」