気が付くと僕は高校の教室の椅子に座っていて、青ざめた顔で黒板を見つめていた。

周りの生徒や先生が何事かという表情でこちらを見つめている。どうやら、実際に声に出して叫んでしまっていたらしい。

僕は額の冷や汗を拭うと、すみませんと小声で呟いて俯いた。

周りの生徒もすぐにまたいつものアレか、という表情を浮かべて前に向き直り、先生は何事もなかったかの様に教科書を読み始める。

実際、僕が幻覚や幻聴を見ておかしな行動を取るのは珍しいことではなかった。

でも、今回ばかりはいつもと違う気がする。

漆黒の中へと消えたニナ……彼女にはもうなぜか会えない気がしてしまって、そう思うと強く心が締め付けられる。

僕は彼女を失望させた。僕は『唯一のお友達』を酷く傷つけた。

その罪悪感から目を逸らしたいばかりに、僕は隣に立っていたマナに話しかける。

「マナ……ニナは戻って来てくれるかな?」



真っ黒の髪に赤い目をしたその少女は、窓枠に座って足をブラブラとさせながら素っ気なく言った。

「さあネ。それはキミの彼女に対する気持ち次第じゃないかナ」

「どういう意味?」

「キミが本当にニナをオトモダチだと思っているなら……あの時、彼女を突き飛ばすべきじゃなかった」

「それはそうだけど……でも、あの白線を超えてしまったら何か良くないことが起きる気がしたんだ」

「今更何を言ってるのサ」

「……え? 何が?」



聞き返した僕の前で、マナの血の様に赤い目が怪しく光った。

「そうやってまたとぼけるつもりカイ? そうやってこれからも自分にウソを重ねていくのカイ?」

「…………」

「呆れたヤツだなあ。オレはもうそろそろご主人様の元へ戻るヨ。後は自分で良く考えナ」



窓枠から飛び降り、堀川君の席へ歩いていくマナを僕は黙って見送る。

僕はその時、何となくニナにはもうしばらく会えない予感がしていた。



そしてその予想通り、ニナが現れなくなったまま月日が流れ――そして遂に四年が経過した。