それからハルは毎日同じ時間にやって来てヨシノにたくさん話を聞かせた。クラスの友達のこと、今流行ってる芸人のギャグ、テストで良い点が取れたこと…楽しそうに話すハルをみてるとヨシノまで楽しくなった。ハルの学校が終わって帰るまでの約10分間。それはいつもすぐ過ぎていく、笑顔であふれた10分間。幸せだった。
そんな時間を過ごすなか、ヨシノは気づいてしまった。ハルのことが好きだ。自覚はなかったけど、随分前から好きだったのかもしれない。自覚したのはハルと出会って1週間。桜が満開になった日だった。
ハルの太陽のような笑顔が見たい。ハスキーなあの声が聞きたい。ハルの話がききたい。早く、ハルに会いたい。
でも、同時にヨシノは思い出してしまった。花が枯れたら自分はこの姿でいられないと。そして、ハルは自分のことを忘れてしまうと。人間でいれる代わり、その間に関わった人間はヨシノに関する記憶をなくす。
ヨシノはそれを知っていた。知っていたけど知らないふりをしていた。本当に忘れてしまうのだろうか、例外もあるのではないか。考えたけれど、考えるだけ無駄だった。ヨシノ自身が一番わかっていた。桜が枯れるまであと1週間だ。