「No title」




少し懐かしいその声は
苦く甘い過去を思い出させ手に汗を滲ませる


「やっぱり風だ!久しぶりだね」


人集りをかき分けて私の前まで来た彼は
付けていたサングラスを上にズラして私をじっと見つめた


「隆ちゃん…久しぶり」


彼の名前は菅野 隆二
私より2つ年上、立花先輩と同い年


隆ちゃんは世界で活躍しているバイオリニストで


1年半前活動拠点を海外に移してから
私も会うのは1年半ぶり


そして隆ちゃんは私の兄的存在であり
初恋の人だ。


「来週には向こうに戻るんだけど

日本に来たからには風に会わないとって思って会いに来ちゃった」



無邪気に笑う隆ちゃんの笑顔は昔と変わらない


厳しい両親の元で身内に味方がいなかった孤独だった私を救ってくれた人


じわじわと昔の色々な感情が込み上げてくる