あの日、君と僕は


「ご、ごめんなさいっ!」

驚いて謝ると、相手は申し訳なさそうに微笑し、

「こちらこそ、ごめん!ちゃんと前を見ていなかった。」

と、彼は手を顔の前でぱちんと合わせている。

名札を見ると、同じ色のものであることから同級生なのだと今になって気づく。

「いえ、わ、私も悪いんです、すみません」

「僕もわるいんだ。…えっと君、同級生、だよね?」

「たぶん、そうかと…」

「そっか。えっと、ちなみに名前は…なんておこがましいか。」

と、笑っている。

「相川、柚葉です。」

意識せずとも口から飛び出した言葉に、自分でも驚く。

せっかくの人と話すチャンスだ。
母親からも、もっと人と喋りなさいと言われたではなかったか——

「そっか、よろしく、相川さん。僕は坂野蓮実。」

「こちらこそ、よろしくお願い、します。」

一体、いつ関わる時が来るのか全くわからなかったけど、しどろもどろになりながらも返事はしておいた。

「それじゃね。」

と彼、蓮実は去っていく。
最後に見せた懐かれそうな笑顔を見て、
きっとクラスでも人気者なんだろうなと関係のないことまで思ってしまう。

いつか、もし、彼と関わることになったら、今度こそはちゃんと話そうと思った。

………

なんか、少女漫画みたいだな。

教室に戻り自分の席に着くなり、先程の出来事ばかり考えている。

男子生徒、蓮実とぶつかって名前知って。

記憶にない人だった。

出身の小学校はきっと違う。