「したよ、どうしたの?」
首をかしげると、一つに左側で束ねた髪が揺れる。
「一問だけ、わからんとこあってさー。な、教えてくれん?」
「うん、いいよ」
またいつもの愛想笑いで応答する。
「ここが矢じり型だから、内角の和はこのへっこんだ角度と同じで、じゃあこの角度はこの線の錯角だから、—」
「うわ、ほんまや! うち、難しく考えすぎてたかも。ありがとう!」
「どういたしまして。」
「ほんま、ゆずはは教えかた上手やなぁ」
「そんなことないよ」
そう自分のことをいいように言ってくれるのは慣れっこだ。
去年だってそう。あなたは自分を持っていますだの、生徒会や委員会に入ってみてはどうですかだの、担任もいいように言ってくれた。
ちゃんと自分のことを見てくれている。
感謝すべきなのだろうけど、柚葉にとって全て不満に思っていた。
どうしてそう思えるのですか。根拠を示してほしいのだ。
キーン、コーン、カーン、コーン。
八時三十分のチャイムが鳴った。
数学を教えて貰いに来た彼女に不満はないが、急がなきゃ、と思った。
