あの日、君と僕は

「そうなんだ!私と一緒だね!」

「相川もなんだ」

「だから吹奏楽部に入ってるんだよ?」

「はは、当たり前か」

笑いながら相槌を打つ。

音楽が嫌いで吹部にいるわけないか、と自嘲する。

「ねえ、何か吹いてよ」

「…え、そんなに上手くないよ?」

これはきっと謙遜しているな、と蓮実でも思った。

「それでもいいからさ」

「…わかった」

渋々、といったところで焼きそばを椅子に置き、代わりにフルートを手に取る。

照明に反射して、それがきらきらと光った。

「何吹いたらいい?」

「相川が好きな曲。」

「……」

難しい顔をする柚葉は、素直にかわいいなと思った。

ふっ、と息を吸ったかと思うと綺麗な、澄み渡るような音が鼓膜を揺らした。

ほら、やっぱり上手い。

綺麗で、儚くて、でも力強い。そんな音がこのちっこい体から紡ぎ出される。

滑らかに動く指。

息を吸うたびに動く体。

揺れる柔らかな髪。

彼女の全てを目に焼き付けるように見ていた。

やがて音が止む。

どうだった?とでも聞くように上目遣いでこちらを見てくる。

パチパチ、と拍手を送ると柚葉はまたはにかむように笑う。

とても自然な笑みが、蓮実の心を動かした。

「やっぱり上手いじゃんか」

「へへ、ありがとう」

「相川の音、好きだな」

「え…!?」

「なに、そこまで驚かなくても」

「だって、だって。」

しどろもどろになりながら、目の前にいる彼女が答えた。

「そんなこと言われるの、初めてだし、慣れてない、し……」