あの日、君と僕は

もし、部員を見返すことはできなかったのだとしても、嬉しみは膨らみ続けた。

「……」

吹奏楽を続けてよかった、改めてそう思う。

吹きたい、そんな衝動に襲われる。

何か、吹きたい。

文化祭は来年もある。だから今しかないこの感情に身を任せて吹くのも悪くはないかな、と思った。

ぱっと思いついたのは今年のコンクールで金賞を取った自由曲。

フルートソロが脳内にちらついた。

記憶だけを頼りに、音感と直感で吹く。

引退した先輩が吹いていたけど、毎日のように聞いていたからまだ覚えている。

物悲しく、美しい。

そんなイメージを持って吹いてみると、心地よい風が吹いてきた。

開け放たれたドア。そこから吹き込んできたのだろう。

懐かしい。

このフレーズが終わっても、吹き続けた。

音感を頼りに音を生み出すトロンボーンのメロディー。

実際の音域とかけ離れていても、柚葉の耳にすんなりと入ってくる。

楽しい。

楽器を吹く事が。

音楽をする事が。

自分の力だけで音を生み出すことが。

このまま、この空間にずっと居たい。

………

管楽器の音が聞こえる。

蓮実は、四階へ続く階段を上っていた。

誰が吹いているのかはわかる。

彼女のクラスを訪ねてみたが教室にはいなく、柚葉はどこにいるのかと教室にいた店番の人に聞いてみるとまだ戻っていないと聞いたのできっとまだここにいる、と思ったのだ。