あの日、君と僕は

それからも、次から次へと部員が入ってくる。
同期や後輩が来るのが途切れたところで、柚葉は席を立った。

いろんな音があって、自分の音が聞こえなくなるから廊下に出るのだ。

楽器と譜面台、タオルを持って廊下へ出る。

そのまま三階へ降り、教室にいる生徒に練習しても良いか確認して基礎練習を再開する。

四階の部室の前では他のパートの音が気になって練習できないし、自分の学年の廊下でするという配慮を持っての選択だ。

ここで練習するには前までは人目を気にしていたが、今ではもう慣れっこ。

好奇の目で見てくる人もいれば、冷やかしで見る人もいるがお構いなしに練習し続ける。


—いっそこのまま永遠に吹き続けることができればいいのに。


そんな欲求にさえ支配される。

それでも時間になれば部室に戻って楽器を片付けるし、今日もその通りに行動した。

八時三十五分には教室の席に着かなければならないので慌てずにかつ急いで片付け、教室に向かった。

………

教室に着くまで、美羽以外とは誰とも話さなかった。
柚葉は人見知りで、幼い頃からの性格は未だに強く根付いている。

別に、後輩に用があればこちらからいくし、何かあればあちらから聞きに来てくれる。

話さなくても、どうにかなってしまうのだ。

教室に着くと、女子生徒に話しかけられた。

「ゆずは、おはよー!なぁ、昨日の宿題やった?」

斉藤菜月は、流暢に関西弁で話す明るい子だ。

別に、柚葉は彼女のことは嫌ってはいないが、自身の性格上、そっけない感じになってしまう。