あの日、君と僕は

だれか、止めて…!

思わず、上靴のまま、玄関とは違う出口から駆け出した。

北館と南館に分かれていて、それらは渡り廊下でつながっている。

その下も通路があるが、雨水がかかるので雨の日は普通は誰も通ることはない。

しかしそんな中、そこを駆けている女子生徒を見たらさぞ不思議に思うだろう。

下足室は南館にある。

土砂降りの中、柚葉はそこを通って北館へいき、左に曲がった。

理科室ではなく、体育館に続く出口へ向かった。

体育館は校舎と離れているので、また外の通路を通らなければならない。

雨水がかかる。

でもそれは気にしていなかった。

力尽きたように立ち止まる。

ぐしゃ、ぐしゃ。

紺色のスニーカーを踏み潰す音。

幻聴。そうわかっているのに足の震えが止まらない。

まだ、心臓がバクバクと波打っている。

走ったからではない。

いじめ、なのだろうか。

いじめられるのだろうか。

小学校の時の記憶が頭に浮かんでは消えた。

誰かがかばったせいで、いじめの標的にされる。

あれは…

「相川?」

自分の声か、と疑った。

違う、私じゃない。

振り返ると、男の先生が立っていた。

確か、バスケ部の顧問…

「そんなところにつったって、どうしたんだ?って、髪、ぐしょぐしょじゃねーか!」

「え、」

手で触れても、手が濡れているので濡れているかどうかはわからない。

手で濡れているのは、雨水なのか手汗か、わからない。

「風邪引くから、ちゃんとタオルとかで拭いとけよ」

「…はい」

声が、震えた。

それからその先生は、体育館へ行った。

せんせい、たすけてください

そんなこと、言えるはずがなかった。