その後、部長に断って早く帰宅した。
マイ楽器だが、家には持って帰ることはない。
一軒家だが、防音はできないからだ。
『みーんなの反感を買うことになる。』
あの声を、あの表情を思い出すだけでぞくりと背筋が凍るようだ。
背筋が凍ることなんてこれまでにあっただろうか。
所詮は全員人間。
そんなことで怖さは吹き飛ぶわけがなかった。
文化祭まであと七日。
残す時間は、一週間を切っている。
見慣れた下足室。
雨の匂いがツンと鼻腔をくすぐる。
下足室に入ろうとして、立ち止まった。
サックスとトランペットが、いる。
何故か、佳純も腕を組んでいる。
サックスが汚物のように手にしているのは柚葉のスニーカー。
それを乱暴に床に投げつけると、パンッという音が室内に響いた。
「何するの」
そう言うつもりだったのに、上手く声が出ない。
『みーんなの反感を買うことになる』
佳純の言葉が蘇る。
そのまま彼女は、柚葉のスニーカーを躊躇なく踏みつける。
あ……
まるで柚葉の気持ちを代弁するかのように、雨脚が強くなった。
「こうなるからいけないんだよ」
あの甘い声は佳純のものだろう。
ぐしゃ、ぐしゃ。
パンッ
踏みつけられては乱暴に投げられる。
まだ柚葉がいることは気がついていない。
もう、やめて!
声に出そうとすればするほど、喉を締め付けられるように苦しくなる。
次第には呼吸さえも奪いにかかるので、声を上げることはできなかった。
