あの日、君と僕は

何か、引っかかる。

何だ、何だ——

「待って!」

くるっと振り返ったのは佳純だ。

「今の部の状況って何なの?雰囲気って?」

「それはね、」

「……」

「部活全体が、緩くなっていることだよ。
そうなったら、どうなるかわかる?」

「……」

無言で首を横に振る。

「きっと、部活に熱心なのは柚葉ちゃんだけだと思うよ。だから、」

そこまで言って、佳純は近づいてくる。

見下すような笑みで、

「みーんなの反感を買うことになる。」

「…っ!」

冷たい視線。

甘ったるい声。

耳を塞ぎたい衝動に駆られた。

「先に行ってるねー」

柚葉はその場で立ちすくんだ。


みんなの反感。

つまり、一人だけ熱心に取り組んでいてもそれだけで鼻につく。

自分のことを、憎らしげに思われる。

じゃあ、見返すことも、無意味……

現役で一番上手くなったって、有言実行できたって、不満は増す一方だろう。

窓に当たる雨粒が、またパラパラと音を立てる。

いつの間にか、また雨が降り出していた。

私は一体、どうすればいい?

でも、部活は辞めたくない。

フルートが好きだから。上手くなりたいから。

しかし、唯一の抵抗が無意味なのだったら。

部活に残る意味がなくなってしまう。

あのミーティングの時に戻れたら。

もし時間を戻すことができるのなら。

初めて、そんなことを思った。