初めは不慣れだったが今は習慣となった。
部室だけではなく、教室でもあいさつや返事をしそうになる程。

フルートパートの一番端にたどり着く。
ここが柚葉の定位置だ。

たどり着いて早々、使っている楽器—マイ楽器、自分が所持している楽器だ—を組み立てる。

そのあと椅子に座って音出し。
ポー、という音が部屋に響く。

十分にできたら一音一音、音を長く伸ばす練習、ロングトーンに移る。

正確な音程で、思い描く音で吹く。
それがなかなか上手くできないということを知った。

変ロ長調、ハ長調までロングトーンする時、部室のドアが開いた。

「おはようございます」

「…おはようございます」

パーカッション(打楽器)の美羽だ。

「おはよー、柚葉。今日も早いねー」

「おはよう、高石さん」

愛想笑い、相手から見たら微笑みを浮かべて柚葉は返事をする。
人と喋るのは苦手だ。

その美羽は、マリンバやシロフォンなどにかかる布を取っていた。

「先輩引退すると、やっぱ音の厚みとか薄っぺらくなっちゃったねー」

「うん、もっと上手くなりたい」

昨日の文化祭に向けての合奏は、やはり個人の努力不足だったのだろうか、今の三年生が引退する前と比べて劣っていた。

「ほんと、先輩たちはほんっとうまかったからなぁ」

「うん」

もっと上手くなりたい、それは柚葉の本心だった。