あの日、君と僕は

………

給食前、蓮実に会った。

彼もまだ柚葉のことを覚えていたみたいで、蛇口から出る水で手を洗いながら少し話をすることが出来た。

と言っても、人見知りの柚葉からではなく、向こうから話しかけられたのだが。

「坂野くんは、何か、部活に入っているの?」

勇気を出して聞いたつもりだった。

しかし彼は、なんでもないように

「何も入っていないよ」

と答えた。

その答えに、違和感があった。

「でも私、部活が終わってから見たよ?」

「僕を?」

しまった、と思った。

言葉足らずだった。

「うん、そう。」

「あー、」

と呻くような声を出した。

「なんでだったかな。」

蓮実は苦笑いを浮かべながら答えた。

「ふふっ。」

「なんで笑うんだよ」

「可笑しいから」

そういう蓮実も、釣られて笑っていた。

それから別れて、互いに自分の教室へ戻ったが、また柚葉は彼の自然な笑顔を忘れられなかった。


不思議。

蓮実といると、部活のことも忘れられていた。

授業中も三人で話す彼女たちのことが忘れられなかったのに。

不思議。


給食を食べ終えてからの授業も、柚葉の気持ちと比例するように雨脚が強まっていた。

放課後が近づく。

それは、またあの三人と顔を合わせることになることを意味しているのだ。

忘れたい。

忘れたいのに、忘れられなかった。