あの日、君と僕は

気がつくとその階段を上っていた。

嗚咽が響いている。

自分のものだとわかるまで、少し時間がかかった。

やはり、屋上には行けなかったのでその前で立ち止まる。

ぽた、ぽたと俯いた目から涙が溢れ出し、廊下を濡らす。

フルートを持ったまましゃがみ込み、声を殺すようにして泣いた。


八時三十分を告げるチャイムが鳴る。

その時もまだ屋上の前でしゃがみこんでいたが、泣きはしていなかった。

早く行かないとと思うが足が鉛のように重い。

行かなければ楽器が片付けられない。
そう思い、重い足のまま部室へ向かう。

廊下に残る部員は数人しかいないが、ドアは開いていた。

急いで片付け、鞄を持つ。

床にあった埃が鞄についていた。

窓の外を見ると、雨が降っている。
私の気持ちと同じだな、なんて思った。


………


『やめてしまえばいいのにね。』

彼女たちは確かにそう言っていた。

それはきっと、自分に向けられたもの。

でも、今部活をやめたら見返せなくなる。
文化祭の演奏だって、参加出来なくなる。

抗おう、とおもった。あの三人に負けてどうする。

二年三組。

プレートに書かれているそれは、柚葉が通うクラスだ。

後ろのドアを開け、自分の席に座る。

一番後ろの窓際が、今の柚葉の席だ。

もう既に三十五分まで一分前。

楽器片付けのに、一分くらいしかかかっていなかったことに気がついた。

準備が終わると同時に着席のチャイムが鳴る。