あの日、君と僕は


五分弱の曲が終わる。

十分を超えるものもあるが、この曲は五分でも満足感に浸ることができる。

「ゆず!お昼ご飯ー!」

「はーい、今行くー!」

母親から昼食の用意ができたと言われた。

余韻に浸っていた脳みそが一気に現実に戻れという司令を出すと、名残惜しい気持ちを残して柚葉を立ち上がらせた。


夕方からの時間は宿題や勉強に充てた。

とにかく、今日の練習中に起きたことを全部忘れてしまいたかった。

舌打ちの意図も、目標のことも。

全部、忘れてしまえばいい。

塾の公立高校試験の過去問。テキスト。
一刻も早く忘れてしまいたいのに、美羽の表情が頭をよぎった。

『あたしには絶対にできないと思う』

『ま、頑張ってね』

浮かべた表情にあった陰。

あれは、一体何だったのか。

考えてもどうにもならないのに、最近は何故か考えてしまう。

蓮実に会いたいのはなぜか。

美羽の本音は何なのか。

舌打ちはどんな意図があったのか。

するすると出てくる『なぜ』が、数学の思考を阻んでくる。

こんなことしたって、こんなこと考えたって意味はない。

そう納得はしているのに——

………

月曜日、重い足取りで学校へ向かった。

結局、色んな『なぜ』はわからなかった。

誰かに相談することもできない。母親にも言いたくない。

自分で解決しなければならないのだ。