あの日、君と僕は

「柚葉」

と呼ばれる声がした。

美羽だ。

「どうしたの?」

ミーティングの隊形からいつもの合奏隊形に並べ替えながら返事をする。

「なんか、柚葉の目標すごいね」

「そう、かな」

「うん。現役の中で一番上手くなるって、あたしだったら絶対無理だと思う」

彼女は微笑しながら言った。

「そうかもね」

確かに、無謀な目標なのかもしれない。
でも、これが自分の本心なのだ。

「ま、頑張ってね」

「…うん」

彼女の表情は、少し陰っているように見えた。


それから、振り分けられた教室で練習をした。

来週も二年生と同じ内容で一年生もミーティングをして、最終的には部全体の目標を決めるらしい。

気分転換も兼ねて、廊下に出る。
流石に吹きっぱなしだったから、だいぶ口がバテてきた。

部室から持ってくるのを忘れていたタオルを持って来ようとし、二年三組の教室を通ったときだった。

「……ほんと、びっくりしたー」

笑いながらそういう声が教室の中から聞こえてきて、思わず柚葉は立ち止まった。

「だって、現役の中で一番上手くなるっていうんだもん」

どきりとした。

きっと、自分のことを言っている…?

「せんぱい、それマジですか。」

「そうなのそうなの!何出しゃばってるんだって思った!」


ドキリ。


「せんぱい、本人に聞こえちゃいますよ、隣のクラスにいるんですから。」

「そうだね、さ、練習しよかー」

隣のクラスにどころか前にいるのだが、それを突っ込んでいる暇はなかった。

『何出しゃばってるんだ』

その一言が、深く胸に刻み付けられたようだった。