あの日、君と僕は

「さかの、はすみ」

自室に着くなり、 口に出して呟いてみる。

なぜだか、会いたいと思った。

自分から名前を言ったから?

なぜ、なぜ、——

考えてもわからないのはいつものことで、数学や理科じゃないからいつもは諦めがつくのに。

いまは、彼のことを考えている。

彼の趣味ってなんだろう。

「……」

考えるのを放棄して、学校で出された宿題や塾で出された宿題をすることにした。

こうして勉強すると、余計なことを考えずに済むようになるのはどうしてだろう。

部活のことも、蓮実のことも考えずに、ただひたすらに出された課題を終わらせる頃にはもうすでに二時間が経っていた。翌日も、朝早くから登校した。

もちろん、朝練があるから。

上手くなりたい。昨日の朝から美羽に言ったことを反芻させる。

上手くなりたい。上手くなって、自分の気持ちを自分の音で伝えられたら。

きっと、言葉にしなくても、人見知りの柚葉でもできること。

それが、音楽なのだ。

さく、さく、さく。

昨日の朝みたいに落ち葉を踏みしめながら歩く。

きっと今日も、変わらない毎日の一部になる。

そんなことを考えながら、学校まで歩いて向かった。