あの日、君と僕は

下校時間十五分前になり、部員は疲れた顔で帰宅する準備をし始めた。

「柚葉、お疲れー」

「お疲れ」

愛想笑いとともに返事をする。

「いやー今日の合奏も疲れたなぁ」

「高石さん、今日はミスなかったね」

「そうなの!!このまんま本番もできるといいんだけどね。」

「そうだね」

あの、坂野って、と言いかけたところで、

「先輩、」

と一つ下の後輩から声をかけられた。

「どうしたの?」

美羽と話せなかったことに少し残念だったが、後輩の言うことに耳を傾けてあげることにし、結局、蓮実のことは聞けないまま帰宅することになった。

………

柚葉の家は、どこにでもあるような一軒家だった。

しかし柚葉はこの家を割と気に入っている。

結局蓮実のことはわからずじまいだったが、校門を出ると彼の姿を見かけた。

部活には入っているらしく、一人で柚葉の家の方面とは逆の道へ向かっていた。

誰かと一緒に帰らないのかと思ったが、そんなことを考えるのは杞憂な気もして、自分の帰路についただけだった。

去り際のあの笑顔が頭から離れない。

会えるかな。
会えないかな。

なぜこんなことを考えるのかわからない。
今までは人と関わることを避けていたのに。

「ただいま」

ダイニングでスマホを操作しながらコーヒーを飲む母親に声をかける。

「おかえりー」

とだけ返ってきた。
どうやら相当集中しているのだろう。

集中しているところ邪魔する気にもならず、二階にある自室へ向かった。