「たまたま同じ場所に居合わせただけです。」
「だとしても、こんな近くに寄る必要は……」
「世間話をしていたのです、声が聴こえる距離にいないとお話しなんてできないでしょう?」
姫君は立ち上がり、"首藤殿も一緒に戻りませんか?" と首藤殿の手を引いた。
「お前も用がないなら早く帰れ。」
首藤殿は去り際に私に向けて そのような言葉を落として行かれた。
"えぇ、仰せのままに" という私の声は鳥のさえずりにかき消されてなくなった。
その日以来 あの木陰へ行くことも、お勤め後 城に居残ることもしなくなった。


