姫君は私の頬に手を添えられた。
「貴方には恋人はいるのかしら?」
「生憎、そのような方は居ませんね。」
姫君は優しい笑みを浮かべられた。
「そう、こんなに男前なのにね。」
「いえ、そんなことは……」
"神永殿が男前でなくて、誰が男前というの?" と声を上げて笑う姫君。
その顔は歳相応の、齢13の女子の無邪気なものだった。
それから 半刻ほどが過ぎただろうか。
「おいちさん……?」
足音を伴ったその声色の正体に気がつき、私は直ぐ様体勢を整える。
このように無礼な格好を一眼でも見られてしまったこと、反省しなくてはならないな。
ここは城の敷地内、元々城内にくつろいでいい場所などないのだから。
「……首藤殿、どうして此方に?」
そう、私の奉公先である首藤殿。
姫君の許婚である首藤殿が私たちの方へ歩み寄って来られる。
「向こうで侍従たちが おいちさんのことを捜しておりましたよ。」
「そうでしたか、では 城の方に戻ります。」
首藤殿は私を一瞥すると "なぜこんな輩と一緒に居るのです?" と姫君に問いかけた。


