はじめて姫君と言葉を交わして以来、あの木陰で時間を過ごすことが日課となっていた。
川のせせらぎ、木の葉のこする音、鳥のさえずり。その総てが私を癒してくれる。
このとっておきの場所を教えてくださった姫君には感謝の念のほかない。
「あら、神永殿ではありませんか。」
相変わらず 草原に寝そべる私、数日振りにお見かけした姫君は にこりと笑顔を浮かべられた。
"隣、いいかしら?" という声に私は "もちろん" と応える。
二人の間に交わす言葉は何もない。
私はそれに多少の気まずさも感じながら 何も話しかけられずにいた。
『彼の方と契りを交わすくらいなら死んでしまいたい……』
そんな言葉をこぼす姫君だ。
本当はその言葉の真意を知りたい。
私には首藤と姫君はよく釣り合った お似合いの二人のように思える。
だが、死を意識するほど姫君は追い詰められている。
姫君は首藤殿のことをどう思っているのだろうか。何を考えているのだろうか。
だが、部外者である私が無闇矢鱈と他人の、ましてや奉公先の色恋沙汰に首を突っ込むのは良くない。
そう思うと何も言い出せないのだ。
「ねぇ、神永殿?」