「神永殿!」
お勤めの時間も終わり、家へ帰ろうと歩いていると声を掛けられた。
振り返ると そこには私の奉公先である城主、の一人娘が居た。
「姫?私に何か用ですか?」
城に入るようになって2年程、姫君に声を掛けられる なんてことは初めてだ。
「あの、少し お話をしてみたくて……」
「そうでしたか。何のお話をしましょう?」
パァーッと顔色が晴れた姫君は私の手を取り 駆け出した。
連れてこられたのは姫君のお気に入りだという木陰。
川辺に沿って木が並んでおり、確かに木々の隙間を吹く風が心地良い。
「神永殿は私のことを御存知で?」
「勿論。ですが、私にとって姫君は殿上人、貴女様が我らが城の姫君であること以外は存じ上げておりません。」
「私は小泉いち、齢は13。旗本の首藤殿との婚姻が決まっていますの。」
「そのようなことは耳にしたことがあります。
私、首藤殿に御仕えしていますので。」
「神永殿はそうでしたね。」
「ええ。」
軽く頷いた。