ちょっとそこのおしこみさん



おにいちゃんの名前は、実は知らない。皆んながおにいちゃんと呼ぶので、なごみもそう呼んでいた。


おにいちゃんは若干30歳の男の人で、男衆さんの中でも若かった。


舞妓が着る裾引きとだらりの帯は、一人で着れる物ではない。また、帯を結ぶのに力がいるため、男衆が着付けてくれるのだ。


何人かの男衆がこの時間帯になると置屋に赴いてテキパキと舞妓達を着付けていく。


「へえ、でも試験に受からなあきまへん」


「なごみちゃんやったら大丈夫大丈夫」


「おおきにおにいちゃん、姉さん呼んできます」



のらりくらりと話すこの雰囲気が苦手で、なごみは隣の共同部屋に逃げ込んだ。



「桃丸さん姉さんおにいちゃんきはりました」

「さきあたしやってば!」