舞妓さんを思い浮かべたときに、一番に想像するのは「裾引きでだらりの帯」白塗りと言った様相かと思うが、「からげ」や「浴衣」など、時と場合で服装も様々である。
からげとは、普通の着物と言えば簡単で、少し違うのは肩には子どもの着物と同じく縫い上げがしてあって、袖が長いのが特徴。
お化粧もファンデーションと、「御座敷」というよりも「ご飯食べ」に適した服装であるのが「からげ」であった。
瑠璃丸と衣装部屋に移動して、着付けの準備をする。
瑠璃丸は自分によく似合う紫のからげを指さした。
「なごみちゃんが店出して、贔屓さん付けてご飯食べってなったら、真っ先にからげの仕立てねだりよしよ」
瑠璃丸はからげに細い腕を通しながら、流し目でなごみを見た。
「なごみちゃんやったら、そーやねえ、その赤い着物もにおてるけど、あんたは白系が似合いそうやわ」
「白系どすか?」
ぼんやり自分が白い着物を着ている様子を思い浮かべると、まるでお化けのようだった。
「あんまり白っていうよりシュークリームみたいな色ね、ほんで帯は黒よ。柄はえーと、あ、ここ引っ張って」
瑠璃丸に腰紐を手渡しながら、時には手伝いながら、なごみは一つ口にした。
「瑠璃丸さん姉さんは、ご贔屓さんにからげ買うてもろたんどすか?」
「当たり前やないの。ここにあるからげは古臭くてよお着やんもん」
細身で鼻の高い瑠璃丸は、綺麗な舞妓として人気。いつも新しい物を身につけていた。
「どない言うたら買うてもらえるんでしょう」
「そんなん簡単、その時が来たらまた教えたるわ、ありがとうほな行ってきます」
瑠璃丸はほんの五分でからげを着ると、支度が済んだのか足早に部屋を出ていった。
「こんばんは、おお、おしこみさん、店出し決まったんやてな」
入れ替わるように8畳の衣装部屋に訪れたのは、この街で男衆をしている「おにいちゃん」であった。

