「聞いたでなごみちゃん、来月お店出しなんやって?」
おかあさんとの話しを終えて共同の部屋に戻ると、姉さん達が肩を並べて鏡に向かっていた。
部屋一面に長い鏡が貼り付けてあって、白粉やら、紅やら、姉さん達のお気に入りの化粧道具が棚一杯に並んでいた。
一番歳の近い舞妓さん姉さんの桃丸が、紅を引きながら鏡越しになごみを覗く。
「へえ、そうみたいどす」
「そうみたいどすって、えらいひと事やなあ」
桃丸と同期で隣に座る柚丸は慣れた手つきで髪を梳かしていた。
「菊丸さん姉さんは?」
「まだ帰ったはらへんのよ、歌舞練場で会わへんかった?」
おっきい姉さんにあたる瑠璃丸は、眠たそうに白粉を塗りはじめた。
「姉さん下地忘れてる」
「あーあ」
瑠璃丸は寝ぼけているのが常で、瑠璃丸の一つ下の鶴丸さん姉さんはいつも瑠璃丸のお世話係をしていた。
これで玉屋の全員が出揃った事になるけれど、なごみは姉さん達の名前と顔を覚えるまで半月はかかった。白塗りすると誰が誰だかだ。
着物を着る前なんてみんな襟赤の襦袢を着ているだけなので、もっと難しかったけれど、話していると雰囲気がみんなそれぞれ違うので、なごみでも覚えられた。
「なごみちゃん今日おにいちゃんうちからやから、お着物よろしくね」
「その次がうちえ」
「ほんでその次がうちやわ」
「私は今日からげやからすぐ着たいし今からいける?」
いけともいけなくても、
「へえ姉さん」
流されるのがなごみのいいところわるいところ。

