「なごみ、聞いたえ。あんたこないだお師匠さんに失礼な事言うたらしいな」

「はっ、すんまへん姉さん」


歌舞練場は芸舞妓の踊りや鳴物の練習をするところ。

なごみは稽古場から出てきたばかりの置屋の先輩、舞妓の菊丸に睨まれ廊下の隅に追いやられた。


まさかもう広まるとは、こわやこわや。


「とにかくうちからも謝ったし、お母さんにも言うし、ちゃんと謝りや」


「はい姉さん、」


夕方になると美しくなる菊丸姉さんだが、すっぴんさんのまんまでお稽古場に向かう事もしばしばな菊丸は眉毛も無くて、怪談噺に出てくる幽霊のよう。


そんな事を考えていると、


「なにしてんの稽古はじめるえ」



稽古場からお師匠さんに声をかけられて、「はい!」と元気に返事をしたなごみは簡単に謝りながら菊丸から離れていった。