ピアノを弾き終わると、
彼女はピアノの蓋をしめ、
出口の方を向いた。
目があってしまった。
まだ少し幼い顔をしている。
こちらへ向かってきた。
僕はどうしたら良いか分からず、
ギターケースを背負ったまま立ちつくしていた。
「音楽室でいつもギターを弾いている方ですか?」
「え?…あ、うん」
「わあ〜、会えて嬉しいです!」
「なんで知ってるの?」
「先生から聞きました」
「あぁ、そうなんだ。中学生…だよね?」
「はい、今日は創立記念日で休みなんです。」
話を聞くと、
彼女は、学校案内をしてもらうために、
ここへ来たらしい。
音楽の先生が彼女の案内を担当する予定だったが、
先生に急な会議が入ってしまった。
「会議が終わるまで、音楽室で自由にしててね」
そう言われた彼女は
現在、音楽室にいる。
「先輩のギター、聞いてみたいです」
あまり、人と接するのは苦手だが、
心地の良い音色を聴いたせいか、
彼女の声は嫌な気持ちにならなかった。
「いいよ」
そういって、僕はギターを奏でた。
彼女が微笑んで聴いている。
なんとも言えない。不思議な時間だった。
弾き終わると
「優しい音ですね」
と言ってくれた。
音楽の先生が来たので、
彼女は、僕にお礼を言って
一礼したあと、音楽室を去った。
音楽室に残された僕は、
いつもの日常に戻ったはずなのに、
少しの物足りなさを感じた。
あれから一年後、
いつもの昼休み。
音楽室から、
ピアノとギターの音。
会話をしているような、
楽しげな音楽が響いている。
【END】


