「そうだ!支度しないと……!」

廉は急いで着替え、朝ごはんを食べる。少し広いこの家に一人きりなのはとても寂しい。この寂しさにはいつになっても慣れない。

廉は、恋人の馬場陽菜(ばばひな)と一緒に暮らしていた。しかし、陽菜は今病院のベッドの上で眠っている。

今から二ヶ月前、陽菜は実家のある長野に帰る途中に交通事故に遭い、病院に搬送された。今でも意識は戻っていない。

事故に遭ったと廉が聞いた時、自分が変わってあげられたらと廉は何度も思った。同時に、陽菜を失ってしまうかもしれないという恐怖に胸が押し潰されそうになった。

陽菜と出会ったのは、本当に偶然だった。貧血を起こして倒れた陽菜を廉が助けたのが始まりだ。

そこから連絡を取るようになり、デートを重ねるうちに互いに好きになって交際が始まった。廉にとって、陽菜の存在はかけがえのないものなのだ。

陽菜は雛菊の花が好きだった。お気に入りのデート場所は雛菊の花畑で、廉は陽菜と喧嘩をしてしまった時には雛菊の花束を買った。その時、陽菜が言ったのだ。