「いえ、今は仕事ですので」

楓は思いを胸にしまい、微笑む。仕事とプライベートはきちんと分けたいのだ。

翔太は家が近所で、幼い頃はよく一緒に遊んだ。翔太はサッカーや野球よりも読書が好きで、楓も翔太と一緒に読書をしたり、絵を描いたりする時間が好きだった。しかし、高学年になると周りからからかわれるようになり、それから二人は距離を取るようになったのだ。

中学と高校も一緒だったが、話すことはあまりなかった。それぞれ違う大学に進学し、楓はイラストレーターに、翔太は小説家として活躍する。そして、二人は仕事で再び話す機会ができた。

「せっかくだし、話を聞きたいから俺の家で一緒に仕事をしようよ」

翔太がそう言い、楓は断れずに翔太の家で仕事をすることになった。小説を書いている時の翔太はとても真剣な表情で、楓も頑張らないととペンを動かす。

キーボードを打ち込む音、ペンを走らせる音、互いの息以外にこの部屋には音がない。楓は最初はこの空間に慣れなかったが、今ではこの空間が愛しく感じている。