それは恋人のような繋がりではなく家族的なものだ。観客は小さな子どもたちばかり、自分たちもそのうちの一人だと思えば恥ずかしくはないだろう。

 やがて喝采の拍手が鳴り響き、再び広場に静寂が戻る頃。
 劇が終わると、珍しくカルミアの方からリシャールに訊ねていた。

「どうでしたか?」

「とても興味深い物語でした」

 先祖が登場する物語だ。褒められたのならやはり嬉しいものである。

「ですが付き合わせてしまってすみません。カルミアさんは見飽きた演目でしたよね」

「確かに馴染みの物語ではありますが、斬新な演出で楽しかったですよ。優れた魔法使いを雇っているみたいですね。嵐の海の再現度が高くて、子どもたちに混ざって私も感動してしまいました」

 この世界の演目は、いかに優れた魔法使いを雇うかにかかっている。嵐の海に轟く雷鳴。降り積もる雪に満開の花。本物を用意することが出来るほど、観客は舞台に魅了されるのだ。

「それに最初に興味を惹かれて足を止めたのは私です。あの物語は私の教訓なので」

「教訓?」

「ご先祖様の名前を聞く度、私は燃えるんです。今は、ラクレットの名を出せば英雄の子孫といわれますよね。大変名誉なことではありますが、私は英雄の子孫としてではなく、カルミアとして名をあげたい。そのためにも、私の代でもっともっとラクレットの名を大きくしなければなりません。先祖の名に恥じないように、そして先祖の名に負けないように」

「素晴らしい夢ですね」

 カルミアでさえ不安になるほどの夢をリシャールは容易く受け入れてしまう。かといって適当な返事をしている様子はなく、心からの言葉を贈られているように思う。

「笑わないんですか?」

「何故? 笑いませんよ」

「リデロは大笑いでしたよ。英雄を越えるのかって」

「だとしてもカルミアさんなら叶うでしょうね」

(さすが校長先生というべきかしら。なんというか、やる気を出させるのが上手い人よね。私が知っているのは冷たいラスボスとしてのリシャールだけど、このリシャールさんはちゃんと先生をしているのね。そんな風に言われたら、頑張らないわけにはいかない。良い教育者ね)