僅かに言いよどむカルミアの態度にリシャールは気付いていた。

「いつのまにか、戦場帰りのカルミアという呼び名が広まっているようで……私そんな風に見えます!?」

「そのようなことはないと思いますが、随分と勇ましい呼び名ですね」

 カルミアから顔を背けたリシャールの肩は揺れていた。

「リシャールさん!? 笑い事じゃないですよ! 目立って仕事に支障がでたら困ります。リシャールさんもどこかで耳にしたら訂正しておいてくださいね」

 とはいえカルミアの存在はすでに学園中に広まっている。自らの行動の結果であり、仕方がなかったとはいえ、噂が耳に入る度いたたまれない気持ちになっていた。

「私なりに調査は進めていますが、噂の中心といえば戦場帰りのカルミアに、校長先生が食事をしているところを見かけた、カレーが美味しい……平和なものばかりですね。手掛かりを掴むにも苦労しているところです」

「ありがとうございます。カルミアさん」

「どうしてお礼を?」

「貴女が真摯に仕事と向き合って下さっているので、改めて貴女を選んで良かったと感じていました」

 リシャールは褒めたつもりかもしれないが、なんの成果も残せていないカルミアにっとっては肩身が狭いだけだ。なんとか仕事向きの笑顔を貼り付けてレストランへ向かうが、これからリシャールと食事をすると思うと気が重くなる。

 リシャールが案内してくれたのは王都でも人気のレストランで、これは彼が学生たちの噂から得た情報らしい。リシャールも手掛かりを探して情報を集めているのだと知り、カルミアは気を引き締めた。
 窓際の席に通されると、ガラス越しに街ゆく人々の姿が映る。メニューを手にしたカルミアは、そこに広がる光景に目を奪われていた。

「どうかなさいましたか?」

「この席からだと角にあるカフェがよく見えるんです。賑わっているようなので、少し気になっていました」

 カルミアの視線を追ってリシャールが振り返る。テラス席を併設しているカフェからは列が店の外にまで伸びていた。

「ああ、オレンジの看板の。確か、あちらも生徒たちの間で有名だったと記憶しています。王都に来たら一度は行ってみたい店だとか」

「そうなんですか!?」