決してリシャールのことが嫌いなわけではないが、しかし気まずいのだ。

「外出されるのですか?」

「はい。食事と買い物に」

「食事ですか? てっきりカルミアさんはご自分で作られていると思っていたのですが」

「もちろん作りますよ。でも今日は懐かしいロクサーヌの味を堪能したい気分なんです。学食の参考にもなりますしね」

「なるほど、新しいメニューを始めるのですか?」

「さすがに毎日カレーだと飽きられてしまいますから。健康面にも配慮して、バランスの良い食事も考えたいんです。そうだリシャールさん、どこかお勧めの店はありますか?」

「私でよければ案内しますよ。私も食事はまだですから」

「え?」

(こ、この流れは、まさか……!?)

「ご一緒してもよろしいですか?」

 純粋に、食事の誘いに驚かされる。彼と食事をしたいと言い続けて何度も断られている人がいると、ロシュから耳にしたばかりだ。それなのに、こんなにも簡単に自分が誘われていいのだろうか。

「あの、オランヌ先生も誘いますか?」

「オランヌ? オランヌと知り合いなのですか?」

「そういうわけでは……ただ、ロシュがオランヌ先生もリシャールさんと食事がしたいと言っていたので、私ばかりが申し訳ないと……」

「あれはいいんですよ。彼と一緒では落ち着いて食事もできません。ですから二人きりで、このことは内密にお願いします」

 オランヌに押し付けて逃げ出す作戦は失敗した。しかも既に決定事項のよう雰囲気となっている。

(完全に逃げ遅れた!)

 逃げ出すタイミングを逸したカルミアは心の内で泣いていた。
 ぎこちなくもカルミアが頷くと、リシャールは嬉しそうな笑みを返してくれる。そうしてまた一つ、リシャールとの秘密が増えてしまった。ここからラスボスと過ごす休日の始まりである。
 しかし何度も言うが、決してリシャールのことが嫌いなわけではない。ただ……

「とこらで学園生活はどうですか?」

(ほらね!?)

 並んで歩き出せばさっそくこれである。しかもここは学外で、職員や学生たちの目もない。となれば必然的にするべき会話は決まっている。きっとリシャールもそのために自分を呼び止めたのだ。

「問題なく職場には溶け込めていると、思います」

「では何か別の問題でも?」