カルミア・ラクレットは魔法大国の名家に生まれた。
 王家からの信頼も厚く、国内においては多数の事業を展開する一族であり、さらに国外では貿易会社として知れ渡っている。

 幼い頃から両親に連れられ仕事の世界に触れていたカルミアは、若くして才能を認められていた。カルミアの商才を見抜いた両親は娘に自由に動ける権限を与えることを躊躇わず、その結果十八歳となった現在では商船を任され、時には国を飛び出し各地を巡っている。

 商談の帰路、補給のために立ち寄った港町。
 カルミアは見張り台から景色を眺めていた。甲板から見上げるよりも空に近づける気がする。そんな理由から好んで居座ってしまうのだ。
 ただし風が強いことが難点で、潮風に煽られた髪をやり過ごすのに苦労する。絶えずスカートの裾にも気を配らなければならないだろう。
 落ち着いた色合いのワンピースを上品に着こなすカルミアは、船は船でもリゾート観光に向かいそうな出で立ちだ。そうでなくとも船の見張り台に令嬢という組み合わせは珍しい。 乱れる髪を整えながら、カルミアは水平線を見据える。その先にある光景を思い浮かべると、抑えきれない笑みが零れた。少し前までは大人たちと渡り合うために強気な姿を演じていたが、それは年相応の無邪気なものだ。

 手元の時計を確認すれば出航の時刻が迫っている。
 澄んだ空の青。空よりも濃い海の青。二つが入り交じる水平線の彼方にはカルミアの故郷、魔法大国ロクサーヌが待ち受ける。