塩も胡椒も手元にあるが、ロシュの眼差しから逃れるため、調味料を探すふりをした。
 それきり追及されることはなくカルミアは安堵するのだが、とてつもない誤解が生まれていたことをこの時のカルミアはまだ知らない。

(なんとか誤魔化せたわね。次は小麦粉を加えて玉ねぎと混ぜる。牛乳を少しずつ加えて、丁寧に混ぜていけばホワイトソースの完成よ)

「カルミアさん、パンの準備も出来てますよ!」

「ありがとう。これだけだとさみしいから、保冷庫にあったベーコンとブロッコリーも入れるわね」

「わ! 急に華やかになりました。これだけでも美味しそうですね」

「ここにホワイトソースを流し込んでチーズをかけるの。焼いたらもっと美味しくなるわよ」

 焦げ目がつくまでしっかり焼き上げれば完成だ。

「焼いている間にスープの味も調えておくわ」

 幸いにして放り込まれていた野菜にはしっかりと火が通っていた。味付けが皆無なだけで、茹でた野菜を食べているという感覚になっているだけだ。
 ここにグラタンでも活躍したベーコンを投入し、厨房で見つけた調味料で味を整えていく。
 ロシュにも味を見てもらい、及第点をもらうことが出来た。

「カルミアさんの料理、凄いです! それにとっても美味しくて! 僕、感動しました!」

 一口食べただけでロシュは大喜びしてくれる。その笑顔はカルミアに勇気を与えてくれた。

「僕、食事はいつもここで食べるんですけど、どうしても栄養が偏りがちなんですよね。でもこれ、まるで別の料理みたいに生まれ変わっていて凄いですよ!」

(ロシュもベルネさんの被害者……)

 まずい。美味しくない。その言葉を使わなければセーフらしく、ロシュは禁止ワードのギリギリを攻めているようだった。

(そうよね。誰かに美味しいと言ってもらえるのは嬉しいことだわ。でもそれは強制するものじゃない。やっぱりベルネさんの考え方は間違っていると私は思う)

 料理は食べくれる人のために。それも感想を押し付けるなんて横暴だ。

「あ、グラタンの方も出来たみたいですね! 早く校長先生にも食べさせてあげないとですね!」

 悩むかカルミアを急かし、ロシュが料理を運んで行く。

「お待たせしました。本日のメニューはカルミアさん特製ホワイトシチューのグラタンと、野菜たっぷりのスープだそうです!」